キックボクシングをやってて、ふと思ったこと。
会社では、私は変人かアホか、とにかく妙な人間と思われている(たぶん)。だから、私はヒマな時間にスーツ姿で堂々とシャドーをやっている。どうせおかしな奴と思われているのだから、いまさら何をしたって平気なのだ。会社の人間は、私がキックを始めたと聞いて当初は驚いていたが、そろそろシャドーも当たり前になったようである。
このあいだ、事務所でワンツーをしていたら、眼鏡をかけた上司がこう尋ねた。
「それで、誰に仕返しするの?」
いや、これはあくまでスポーツですから、と答えたが、ふと昔を思い出した。中学の時に同級生や上級生によく殴られたり蹴られたりした。あの時、私は格闘技好きでもなんでもなかったが、そういう奴らは空手やら柔道やらをやっていたものだ。ガキのすることとは言え、武道の精神が泣いている。当時の指導者は何を教えていたのか……いや、指導者の責任ももちろんあるだろうが、所詮は使う者の人間性の問題だろうか。あるいは親や教師の問題。
私の子供時代と言えば、『北斗の拳』や『キン肉マン』などが流行っていたものである。男の子は多かれ少なかれ、真似して遊んでいた。北斗神拳がどうこういって同級生を殴ったり、プロレス技でうっかり腕を折ってしまうなどということも多々あった。マンガに込められたヒーローたちの精神は、ガキにはまったく伝わらず、格闘技は弱いものいじめやせせこましい学校内の争いの道具、単なる暴力に成り下がっていた。
虚しい話だ。今の子供はどうなのだろう。『テニスの王子様』が好きなので、たまに少年ジャンプも見る。他のマンガをざっと見渡しても、あまり殴り合いは見当たらない。あるにはあるのだろうが、絶対数は減っているのかもしれない。そういうものが描きにくい世の中になっているのかもしれない。
だが格闘を題材にしたマンガは減っても、K−1やPRIDEがテレビでも放送され、格闘技はより身近になった感がある。魔裟斗や武蔵が、かつてのマンガのヒーローのような、偶像になる局面もあるのかもしれない。どこかの子供が魔裟斗の真似をして、自分より弱いものを殴りつける……。そんな馬鹿げたことが、やはり今でも繰り返されているのだろうか?
武道の精神。頂点を目指し自分の限界に挑戦し続けるスポーツ選手の精神。フィクションであるマンガはもちろんだが、テレビ放映もそれをないがしろにしてはいけないし、一キックボクサーとしての私も、それを忘れてはいけないなあ、と思うのである。
たとえば、将来、私に子供ができて、キックボクシングを習わせたとしよう。その子供が学校で自分より弱いよその子供の、膝の上の筋肉のないあたりをローで蹴りまくったとしたらどうだろう。正直、ぞっとする。それはスポーツの精神に反し、格闘技を冒涜するものであり、キックボクサーとしての私の恥であり、親としての私の敗北である。
肝に銘じておきたいところだ。
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