2005/9/23 Kー1WGP開幕戦 観戦記
その時、歴史は動かなかった!
さて、今年二度目の大阪ドームである。今回はオープニングファイトがあるということで、2時50分頃に会場入りした。大阪は残暑がやや厳しいが、今日も格闘技日和であった。
パンフレットとイグナショフTシャツを購入後、座して試合開始を待つ。そうそう、SRSの特典のポストカードセットももらった。しかしイグナショフの写真は今年のパリ大会のもので、イマイチだった。
13列目ということで、ちょうど前から二ブロック目の一番前。二年前の開幕戦の時はえらく角度があったのだが、今回は完璧である。
そうこう言ってるうちにオープニングファイトが始まった。
オープニングファイト
アレクサンダー・ピチュクノフ
ラニ・ベルバーチ
極真第四の怪物が、ついにKー1参戦。「一撃」でグローブマッチを何戦か経験しているも、実力は未知数。だが、開始早々切れのある蹴りを放ち、ベルバーチを圧倒する。前蹴りやローで距離を取り、時折トリッキーな回転蹴りも放つ。上のガードもしっかり固め、ベルバーチのパンチをブロックする。一ラウンド、二ラウンドとラッシュをかけ、ポイントでは優勢にたった印象。しかし、このベルバーチという選手、ダブダブの腹の癖にしぶとく粘り、ボディブローと強引なハイキックでピチュクノフを失速させる。逆に攻勢にでて三ラウンド終了。
判定でピチュクノフだったが、インパクトを残す内容ではなかった。
ここでホースト先生が登場。試合に出られなくなったお詫びと、今の気持ちとしてはトーナメントは引退ということを、淡々と告げる。本当に残念だったけど、でも来てくれて良かった。
子供演武のあと、全選手が入場。第二試合のガオグライが、ウォーミングアップ中なのか、すでに裸。しかし一昨年はキャンペーンガール?が先導してたんだけど、今回は正道会館のちびっ子である。けちってるんだろうかなあ。
そして注目の第1試合である。
第1試合
角田信朗(日本/正道会館)
ジョージ・“ザ・アイアン・ライオン”(オーストラリア/スタン・ザ・マン・ジム)
さて、アイアンライオン入場……おお、ほんとに弟だ! 顔がそっくりだよ。試合が始まったら、前傾姿勢を取りグローブを高めにあげる……こ、これはスタン・ザ・マンと同じ構え! なんかパンパンに筋肉が詰まった感じの選手で、一発がありそうだ。が、それほど攻めるでもなく距離を取ってのローに終始。ムエタイっぽいディフェンスのせいか、角田は踏みこめない。ローからパンチにつなげ、角田のパンチはなり振り構わぬ大袈裟なダッキングでかわすアイアンライオン。第二ラウンド、リーチ差で勝ったパンチが角田をマットに叩きふせる。
その後、三ラウンドに巻き返しをはかった角田だが、ワンダウンのポイントは覆せず、判定負け。勝ったアイアンライオンも完全にスタミナ切れ。自軍コーナーに戻る時に手をあげようとしたら、トレーナーがそれを払い落とした。不甲斐ない試合に怒っているのだろう、厳しいトレーナーだな……って、よく見たらスタン・ザ・マンだよ!
まさかスタンを生で見られるとは思わなかった。彼やグレコが今や立派なトレーナーなんだから、オールドファンは長く見てきた甲斐があるというものである。
この時点でざっと会場を見回してみると、アリーナは綺麗に埋まってる感じ。スタンドには空席が目立つ。一昨年よりは多いと思うが、せいぜい4万人ぐらいかなあ。
第2試合
レイ・セフォー(ニュージーランド/レイ・セフォー・ファイトアカデミー/昨年ベスト8)
ガオグライ・ゲーンノラシン(タイ/伊原道場/昨年3位)
パンフレットを読むと、セフォーはソウル大会での張慶軍の戦いを高く評価していて、あのプレッシャーのかけ方がヒントになると言っている。果たして、すぐにプレッシャーをかけていくセフォー。いつもより早くノーガードに切り替え、ガオグライは軽い蹴りを出しながら周りを回る。セフォーはハイ、ロー、フックとやや強引に振っていき、いかにも攻撃しているという印象を見せる。敢えて遠目から出す事で、ガオグライのカウンターを封じているか?
挑発を繰り返すセフォーの動きは、いつにも増してトリッキー。パフォーマンスよりも攻撃のバリエーションに目が行く。ガオグライはかけ逃げが増え、蹴った後にわざとスリップするのか露骨になっていく。そして、ついに躱しぎわにセフォーのフックがヒット! 体勢を崩しかけていたガオグライは膝を突き、ダウンを宣告される。
ダメージはあまりなさげで、すぐに立ち上がってアピールするが、ダウンはダウン。戦法の裏を突かれたか? ダメージがないのを承知か、セフォーもラッシュをかけず、2ラウンド終了。
こうなれば、ガオグライにポイントを取りかえす術はない。それでも後の攻撃は躱し続けるが、一度セフォーが空振りした後に、大きくスウェーを繰り返すシーンがあった。ここで勝負あったという感じ。攻撃がないのにあらかじめ身体を振るということは、つまり読めていないということだろう。
セフォーの貫禄勝ちという印象だった。番狂わせは起きず。だが、この流れが最後までかわらないことには、この時点では気付くよしもなかったのだ……。
第3試合
リカルド・ノードストランド(スウェーデン/ヴァレンテュナ・ボクシング・キャンプ)
ルスラン・カラエフ(ロシア/マルプロジム/GP最終予選優勝)
武蔵には塩漬けにされたノードストランド、どんなファイトスタイルかよくわからなかったが、カラエフの猛攻を受けての反撃でそれが明らかになる。組んでの膝で攻撃を止め、離れ際のパンチラッシュにつなげるスタイル。なるほど、ホルムやクルトと同じスタイルだ。組み止めてからの膝とローが強く、ローブローもあってカラエフの脚が流れる。
終盤、踏んばりが効かなくなったカラエフは動きが鈍り、三ラウンド終了間際に顔面に膝を浴び危ない場面も。
手数でカラエフが上回り、どうやら判定は押さえた。
ここでも下馬評通りか。
第4試合
セーム・シュルト(オランダ/正道会館/ヨーロッパGP優勝)
グラウベ・フェイトーザ(ブラジル/極真会館/USA GP優勝)
開始早々、単調ながら猛攻撃を繰り出すシュルト。前蹴り、ジャブ、膝でグラウベを容赦なく叩き続ける。グラウベもパンチを返すのだが、まったく届かない。ロープ際に詰められ、なす術なく攻撃を浴びる。
二ラウンド、それがさらに顕著に。シュルトはパンチにボディブローも交え、これが効いたかグラウベは身体を丸め、ローにも脚が流れるようになる。三ラウンドになって、後がないグラウベはやみくもにパンチを振り、ついにブラジリアンキックを顔面に当てる。が、当たりが浅く決定打にはならない。上から打ち下ろすはずのハイも、シュルトの身長の前ではただのハイと変わらない。
ダメージは大きく、判定でシュルト圧勝。グラウベは一度も突破口を開けず。勝つためのプランがあるようには見えなかった。
第5試合
レミー・ボンヤスキー(オランダ/メジロジム/昨年優勝)
アレクセイ・イグナショフ(ベラルーシ/チヌックジム/昨年ベスト16)
昨日、会社の同僚(女性)と話していた時のこと。
「あの人(イグナショフ)って、葉っぱが友達やねんやろ? あんまり強くないよな。葉っぱとばっかり練習してるから、人間には本気になられへんのかな」
……世間の認知なんてこんなものだ。その後、葉っぱだけじゃなくてキノコも好きだとか、あの逆三角じゃないいまいちカッコ良くない体型は、プロテインや薬物に頼らない自然なボディであることを滔々と説明した。
「でも、あの人、なんかいいよな。その話聞いて、ますます好きになったわ」
それは良かった。さて、そんなファンの期待を一身に背負い、我らがイグナショフは入場する。前日のインタビューやパンフレットのコメントなどを見ると、ファンのためにいい試合をしたい、と、えらく意気込んでいる。心なしか入場時の表情は厳しく、足取りは早い。
さて、気になるボディの状態は……おお、痩せているではないか。後ろの方の席から、
「痩せてるぞ!」
「これなら期待できる」
という声が聴こえる。どこにでも同志はいるものだ。しかしなで肩からは、なんとなく力が感じられない。
煽りVは奥さんも美人で絶好調のボンヤスキーに、大スランプ男イグナショフが挑むという、勝ち組と負け組の構図。余計なお世話だ! 一瞬、今までボンヤスキーに対して「いいなあ」と思っていた自分に気付き、猛烈に腹がたった。
先手を取ったのはイグ。パンチで距離を詰め、ボディを叩き付ける。レミーは警戒しているのか、いささか動きが固い。だが、対するイグナショフも蹴りが出ない。おいおい、ほんとに治ってるの?と思ってたら、ローが出た、続いてミドル、そして膝! 出た! パリは無しだったから、実に1年ぶりにイグナショフの膝を見たことになる。立った状態から軽く組んで顔面狙いの膝。ボンヤスキーはガードしたが、これはかなりのプレッシャーだろう。
だが、内田戦とは比べ物にならないながら、やはり蹴りは本来の走り方ではない。
一ラウンドは様子見のレミーに対し、やや手数で上回ったか。
二ラウンド、レミーはローキックを増やし、わずかながらピッチを上げる。イグナショフも変わらぬコンビネーションで対抗。ちょっとローを受け過ぎなイグナショフだが、効いた素振りは見せない。鞭のようなローだが、当てる事優先でさほど威力はないのか。そのまま淡々と三ラウンドが過ぎた。イグナショフは動きは悪くなく、ボンヤスキーの攻撃もすべて見切りダメージは受けていない。しいて言えばこつこつ当てられたローぐらいのものか。
案の定、延長に突入。延長と言えば、勝っていても延長をやらされた、延長経験豊富のボンヤスキー。まあイグナショフも多いけど。延長にきて、ここぞとばかりにコンビネーションをまとめる。イグナショフはスタミナが切れたか、手数が落ちる。ボンヤスキーはわずかにリズムに乗り、飛び膝やフライングハイも繰り出す。イグナショフはここで「バチン!」と音のする強烈なローを二発返すも、それ以上の攻撃は出ず。決定打は最後まで受けなかったが、手数で勝ったボンヤスキーが延長判定を制した。
残念だが、まあこんなところだろうか。やはり動きに切れがなく、万全ではなかった。パンチ主体に切り替えた試合勘の狂いから、上下のバランスも悪く感じた。以前はもっと左右のミドルや色々なパターンの膝を出していたものだ。ハイキックも一発も出ず。
絶不調男のスランプ脱出は、今回もならなかった。負けるぐらいなら休んでくれていた方が良かったのに、という意見もあるだろうが、しかし今回試合がなければ、我々ファンはイグナショフの今の状態もわからず、どうしているのだろうと考えながら悶々とした日々を送らねばならなかったのだ。おそらく来年まで。少なくとも今、彼がどういう状態かはわかったし、以前より確実に良くなっていることもわかった。今後、再び浮上するのも並み大抵の努力ではなかろうが、彼は今回ファンの声援に感謝していると言ってくれた。こういう良くない状態の時こそ、我々の声が力になるのだ。そう信じて、決してタオルを投げることなく応援していきたい。
ま、ボンヤスキーともまだこれで二勝二敗だからね。次は叩き伏せてやるよ、フン! え? 大人げない? ファンが負け惜しみ言ってなにが悪いんだよ!
ところで、隣に座ってたなまり丸出しのおばちゃんが延長の途中で寝てしまっていた。アホか! この大事な試合を! 終わった後もまだ寝ててオレの方に船を漕いできたので、イヤそうな顔でジロジロ見てやったら、旦那にたしなめられていた。とは言え別に謝るわけでもなく……けっ、だから生観戦は客のレベルが低くてイヤなんだよ(格オタ的発言)。
そう言えば、ホースト欠場を知らない人もけっこう多かった。ネットもスポーツ新聞も見てなきゃそんなもんかもね。
ここで休憩。ここまで2時間45分。全試合判定でもうグッタリ。
十五分の休憩(途中で宮本が前を通った。でけえ!)後、正道師範二人の演武。ここまで全試合判定ということで、もうちょっとちゃっちゃと進めてもらいたいものだが、まあ仕方がない。これを見たガキ(失礼)の中から、明日の日本人ファイターが生まれるかもしれないのだから……。
子供なんて来てるのか? と思われる方もいるかもしれないが、意外な程、親子連れが多い。チケットは買ったのかどこかからもらうのか知らないが、小学生ぐらいの小さな子供の姿が非常に目についた。合わせて、MAXでもないのに女性同士のグループなどもいる。やはりお茶の間イベントとして底辺はそこそこ広がっているのだとわかる。先も書いたが、隣に座ってたのは夫婦ものだった。
もはや、コアな格闘技ファンなど、全体の数%を占めるかどうかというところなのではないか。それに引き換えPRIDEは……などと言うつもりはない。PRIDEのミドル級グランプリ開幕戦に行った時、隣のにいちゃん二人はアリスターの話の流れの中で、レミー・ボンヤスキーの名前を思い出せないでいた。ちっともコアではない。それを言うなら、私だって大してコアではない。いくらでも上がいる。
大阪ドームに観戦に行くたびにいつも少し感じるのが、このわずかばかりの疎外感である。別にまわりに人がいようが一人で楽しめばいいのだが、よく生観戦で言われる「会場に足を運ぶ事で生じる一体感」とかいうものを一度も味わった事がない。私がそんなものを感じることは、この先あるんだろうか? まあこれは性格の問題だからな……。
きっと全日本キックの興行で後楽園に行って、大月か小林のファンになって応援すれば味わえるんだろう。まずありえないだろうが……。
演武は安廣がやればいいのになあ……と思いながらボンヤリと見る。
「続いて、足刀による氷柱割りです」
とアナウンスが入る。後ろの席から聞こえてきた会話。
「ソクトウって?」
「頭やろ」
足刀だよ! 側頭じゃねえよ! 空手家が頭突きするわけないやろ! するにしてもデコだろうが!
第6試合
ジェロム・レ・バンナ(フランス/レ・バンナ・Xトリーム・チーム/昨年リザーバー)
ゲーリー・グッドリッジ(トリニダード・トバゴ/フリー/インターコンチネンタルGP優勝)
ようやく第6試合である。オレは立ち技好きで、ローの一つまで食い入るように見てたから、別に判定続きでも退屈はしてないんだが(ぐったり疲れたけど)、隣のおばちゃんの熟睡ぶりを見るに、退屈していた人は多かっただろう。
もはや期待されているものはただ一つだ。
いきなりのローの連打が完全に効いてしまうグッドリッジ。バンナはパンチの回転がアビディ戦とは比較にならない。あれよあれよと言う間にダウン一つ、ハイとロー、パンチの波状攻撃であっという間にもう二つ!
初めて場内が大きく沸いた。予定調和的な結果なのだが、さすがバンナというところか。ラッシュを受けながら力を溜め、カウンターのフックを一発いれるのが今年のグッドリッジの勝ちパターンだったが、やはり攻撃力の桁が違う相手にはその前に叩き潰されてしまう。
ここも番狂わせは無し。
第7試合
ピーター・アーツ(オランダ/チーム・アーツ/昨年ベスト8)
マイティ・モー(アメリカ/シャークタンクジム/昨年ベスト8)
観戦記としては反則なのだろうが、ここは少し、あとから地上波放送を見ながら感じたことを交えて再構成していきたい。
私見だが、組まれた時点での今大会での最高のカードがこれだった。今年ボンヤスキーとボタを破り、快進撃を続けるマイティ・モー。サモアンフックの破壊力は驚異的で、近年衰えの目立つアーツが破壊されるところも容易に想像出来た。今大会のテーマである世代交代対決の象徴でもあり、新星が伝説を打ち砕くか、一発と技術の激突として非常にわかりやすく、結末の見えないカードであった。
アーツが登場した時の歓声も、セフォーやバンナに負けず劣らず大きかった。そこには、コアなファンもそうでないファンも関係ない、ある種の緊迫した空気があった。かつてのアーツを知るオールドファンの、簡単には負けて欲しくないという気持ち。逆に「現役にしがみつくポンコツ」を新世代の暴風が打ち砕かないかという期待感。衝撃的なKOシーンへの期待とともに、予定調和としてのKO劇が望まれていたバンナ対グッドリッジとはひと味違う、それぞれの思い入れを含んで試合開始を待つ心地よい緊張感があった。
私は技術の信奉者として、アーツ判定勝利を予想していたが、これは多分に願望を含んだものであったことをまず認めておかねばなるまい。あのオーバーハンドを一発でも食えば、アーツの動きは止まり、後はアッパーを交えた破壊力あるコンビネーションで一気に粉砕される……正直、そういうビジョンも幾度も浮かんだ。
まず仕掛けたのはアーツだった。牽制のパンチから、強烈な右のロー。コンビネーションで当てにいくローではなく、大木を刈り取るようなKO狙いのローだ。一発でモーの脚が流れる! 続いて左ミドル、プレッシャーを掛けつつ小さな連打から顎にねじ込むストレート。アーツの得意なコンビネーションだ。ついに振り出されたサモアンフックを、スウェーで躱す。一発目は、紙一重のタイミングだったかもしれない。だが、第二撃はしっかりとブロックし、再び右ローを叩き込む。これまた得意の右ストレートによるプレッシャーか、モーは思うように前に出られず、逆にアーツは細かく動いて絶妙に距離感を調整していく。
アーツ有利の展開かと思った直後、アクシデントが起きる。ローブローでストップした直後、アーツのすねが割れているのが発覚したのだ。おなじみ「職業病」とも言えるすねのカット。脚の怪我で、アーツはこれまで幾度も涙を飲んできた。が、昨年の開幕戦から変更されたルール、試合中の止血の許可、バンテージやサポーターによる保護がここで功を奏した。
試合は続行。運営の不手際など数々指摘されてきたKー1だが、このルール変更には拍手を送りたい。
中断している間、「またか」という思いもあった。それと共にアーツの「伝説」が終わるなら、こういう寂しい結末がある意味ふさわしいのかな、と埒もないことも考えた。だが、悲観的想像に反して試合は続行された。去年まではなかったルールの下で。
再開してもアーツのペースは変わらない。中断前の気迫をそのままに、怪我など意に介さずローを叩き込んで行く。モーもパンチとミドルを返すが、踏み込みがたらない。片脚を上げ、立て続けに飛ばされるローをカットするのが精いっぱいだ。そして、終了間際に異変が起きた。モーが、ローを受け続けた左ではなく、右足を不意に硬直させ、顔をしかめた。アーツはかまわず右ローをかぶせるが、明らかにおかしいのは反対側の脚だった。
一ラウンドが終了し、モーの苦悶の表情は変わらない。アーツに続き、モーにもアクシデントが発生である。
二ラウンドが始まった。アーツも異変に気付き、今度は左の蹴りを飛ばす。モーもそれに合わせてフックを振るが、完全に崩れたバランスのためクルクルとその場を回る。続けて放ったアーツの蹴りは、ローと言うにはやや高い、ミドル気味のキックだったが、これを受けた直後、ついにモーは崩れ落ちた。
大歓声が上がった。立ち上がろうとするが、まったく踏んばりが効かず崩れ落ちるモー。
結果だけ見れば、アクシデントによるすっきりしないものということになる。単にすねをカットしたアーツ以上に、モーが不運だっただけだ、と。運を味方につけたアーツの勝利、そう言っても別に間違いではないと思う。
だが、一つ別の見方を呈示するなら、モーの膝を襲ったアクシデントの原因は何だったのだろうということになる。あとでVTRを見ると、鍵となるのは一ラウンドの、左脚を上げてアーツのローをカットした瞬間だったのではないかと思えてならない。ホーストやボンヤスキーのものとは比較にならない、不格好かつ効いているから上げざるを得なかったというカットの仕方だった。おそらく練習ではしたことすらない動きだろう。その時の軸足には、果たしてどれだけの負担がかかっていたのだろうか? その後の攻撃も右足だけで踏んばって放ったものばかり。圧倒的なパワーと超ヘビー級の体重の負荷が、おそらくほんの短い間とは言え、限界を超えて右膝にかかったのではないか?
それをさしめたものは何であったか……言うまでもなかろう。
試合後、アーツは凶弾に倒れたピーター・スミットに勝利を捧げるとのコメントを残した。
http://www.boutreview.com/data/news05/050816peter-smit.html
このモー戦の結果をもって、「アーツ復活」や「伝説、健在なり」を謳うのは、いささか扇情的にすぎるだろう。だが、またしても、歴史は動かなかった。「20世紀最強の暴君」は、今年も次のステージへと駒を進める。
そして、負傷による結末であることを加味しても、この日のベストバウトがこの試合だったことは、私的には疑うよしもない。
第8試合
武蔵(日本/正道会館/昨年2位)
フランソワ・ボタ(南アフリカ/バッファローズ/昨年3位)
やれやれ、セミとメインは盛り上がってよかった、さて帰ろうか……あれ、まだあるの?
もうこれに関しては、経過は書かない。読者諸兄が御自身で試合を見て判断してもらいたい。
下がるだけのステップ。パンチ、膝、クリンチへとつなげる華麗なコンビネーション。ジャブ並にしか効いていないハイキック。武蔵戦だけキック重視、ダメージよりヒット数に変わる判定基準。立て続けに繰り出されるかけ逃げ目的のクリンチに対し、ついに警告1を出したのみのレフェリー。あげくに30対27という採点。
すべてがクズだ。武蔵コールを出来る人間の感性が、ほんとに信じられない。でも多いんですよね、これが。なんなの? 同胞意識ってやつ? ハハッ。
第9試合
ボブ・サップ(アメリカ/チーム・ビースト/ジャパンGP優勝)
チェ・ホンマン(韓国/フリー/アジアGP優勝)
まずはっきり言ってしまうと、セミがクソ試合なら、これは試合以前だった。振り回すだけのパンチ、組み立てもなにもない打ち合いに、スタミナ切れによるお見合い。ひどい内容だった。ホンマンもついに「サップよりはまし」という程度だという馬脚を現した。こういうマッチメイクをした主催者側には大きな責任がある。
だが、これを色物対決として切って捨てるのは容易いが、この色物に開幕戦進出を許したのは誰かという問題がある。ホンマンは実質スタミナ切れのガオグライ一人を打ち破ってあがったのみだが、サップには日本人ファイター三人が敗れているのだ。
大阪ドームはお見合いの最中、失笑の渦だった。情けなくて涙が出る。
総評としては、技術戦として見るべき所はあったものの、後の世に「Kー1」の歴史を紐解いたところで、一顧だにされない大会であったと言っていいだろう。一つの番狂わせもなく、古豪が順当に勝ち上がった。そういう意味では、苦し紛れの原点回帰を打ちだした昨年の開幕戦と比較しても、もうひとつ苦しかったと言えるかもしれない。
主催者には今こそ、バンナとアーツに上がった歓声と、サップとホンマンへの失笑の意味を考えてほしい。
終わったらほぼ9時。ゆうに五時間はあったことになる。
さて、抽選会が楽しみだなあ。
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